Chain〜切れない鎖〜
「良かったよ。
一馬のこと分かって」

帰り道、あたしがそう言うと、一馬は黙ってあたしの手を握ってくれた。
温かくて、幸せで、思わず笑ってしまった。

一馬見上げる。
あの写真とは全然違う、穏やかな一馬。
しかし、そのふわふわの髪から覗く左耳には、いまだに消えない確かな穴があった。

「辛かったんだね。頑張ったね。…一馬」

そっと一馬に囁いた。






こうやってあたしたちは始まった。

お互いの過去を認め合い、今のお互いを見つめあった。

釣り合わない。
それは今も思うことだけど、きっと釣り合う人になってみせる。
人間って変われるんだから。


幸せいっぱいのあたしは、これから降りかかる災難なんて、何一つ予想していなかった。


蝶が舞う、五月のことだった。

< 82 / 306 >

この作品をシェア

pagetop