かえりみち
「今帰りなの?」

屈託のない卓也の笑顔を見て、百合は内心泣きそうになるのを我慢した。

「うん、救急の患者さんがあって遅くなっちゃった」

「そうか、おつかれさま」

「・・・で、こんなところで何してたの?」

百合がそう言い終わるか終わらないかのうちに、卓也の腕の中から三毛の子猫が顔を出した。

「フ!くすぐったい」

「ニャー!!」

子猫は興奮して暴れている。

「この中に入ってたんだ」

卓也の足元につぶれかけたダンボール箱。

「なんか怒ってるんだよ、このネコ。なんでだろう?」

「怒ってるんじゃなく、怖がってるの。とりあえず、うちに連れて帰ろ」

並んで歩き出す二人。

「で、どうだった?コンサートは」

「うん、よかったよ!」
卓也の目が輝いた。

「島田さんはやっぱりすごい。音色に人柄が表れてて、それが聞く人をひきつけてるんだ」

その後、あわてて付け足す。

「あ、お父さんのチェロもすごく良く響いてたよ」

百合は笑った。
「気ぃ使わなくていいよ。元気ならよかった」




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