かえりみち
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その日、高伊音楽院は朝から落ち着きのない空気がそこかしこに漂っていた。

なんでまたこの日になっちゃったんだろう。
安川は、濃いコーヒーを飲みながら手帳の今日の予定を睨んだ。

今日の予定は二つ。
一つは「シマダ 来る日」と書いてある。
これはいい。
旧友で今や日本を代表するチェリスト、島田幸一の特別講師が、とうとう今日実現するのだ。
島田は人格的にも温厚で、人望が厚い男だ。
生徒にとっても、またとない良い経験になるだろう。

もう一つは・・・
安川はため息をついた。
「葛西 追試」と書かれている。
院長の命で、自分はこっちではなく、島田の方につくことになっている。
葛西の追試には自分は関わってやれない。
あの、ただでさえ手厳しい早乙女教授が、葛西をどう裁くのかは想像に難くない。

せめて最後に、あいつに島田の授業を受けさせてやりたかった・・・


「教授、島田さんが到着されました」
その声に、安川は我に帰った。

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