かえりみち
それから何時間経ったのか。

外の雨はなお、降り続いている。

リビングには、卓也が一人。
ソファに座る気力がないのか、床に座り込んでいる。

さっき由紀子が壊した花瓶は、きれいに片付けられていた。
部屋の片隅のゴミ箱に、茎の折れたルピナスが捨てられている。

無表情で、雨の降り続く外を眺めている。

ふと床に目を落とすと、テーブルの足元にガラスの小さな破片。
さっき掃除したときに、取り残してしまったものだろう。

「・・・」

卓也はそれを手にとると、人差し指の腹に載せてしばらく眺めている。
それから、それを親指ではさんで力をこめた。
はさんだ指の間から、血が染み出してくる。
卓也はそれを、表情を変えることもなくただ眺めている。


階段を下りてくる音に、卓也は我に帰り立ち上がる。

下りてきたのは、幸一だった。


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