微温湯〜ぬるまゆ〜
藤井君へ
夢みたいに
幸せな時間は、
思い返すと
本当に夢だったかのようで、
切なくなるよ。



淡い夜明け。
川べりの道。
パンクの自転車を押して
朝帰り。


あんなに長い時間を
一緒に過ごして、
抱き合ってキスをしても、
あなたの心は此処にはいない。


夢みたいに幸せな時間を、
思い返すと
切なくて泣けてくるから、
忘れてしまおう。
瞳をとじて。

もう二度と思い出さないように。



伝えたいことは
痛いほどあっても
どんなに言葉を選んでも伝わらないことがある。

わかってる。
何かを伝えることの難しさを、
歳を重ねるごとに理解したから。
言葉に対する知識が深まるに連れて、
何も伝えられなくなったんだ。

「またね。元気で。」

あなたがそう呟いて去りゆくことも、
本当はずっと前から知っていた気がする。

素直になって気持ちを伝えても、
泣き叫んで駄々をこねても
やはり去りゆくのだと、

あなたの温度を感じる前からわかっていた。

ずっと前から、わかっていた。
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