心の距離
会社に着き、タイムカードを押した後も、ヒデの表情は晴れなかった。

何かを言いたそうなヒデの顔を尻目に、春樹さん達と現場に向かった。

現場に着き、仕事の支度をしていると、春樹さんが心配そうに聞いてきた。

「何かあったのか?」

「何も無いですよ?」

「お前じゃねぇよ。ヒデだよ。また朝から彼女と喧嘩でもしたのかな?夕べも家の近くで派手にやってたしな」

「ああ、ヒデか…どうなんでしょうね?」

本当は理由を知っている。

ヒデの機嫌が悪い理由は、僕が彼女を誘い、彼女が無邪気に喜んだから。

彼女が居るヒデは、彼女を誘い出す事が出来ない。

ヒデが彼女を誘い出そうとしても、堅い彼女がヒデの誘いに乗る訳が無い。

ふと頭に過ぎった結論と、忘れかけていた彼女の堅さ。

何故か勝ち誇った気分になった途端、肩の力が抜け、仕事もすんなりと終わらせている自分。

後片付けをしていると、春樹さんが話しかけてきた。

「今週の金曜、送別会やるらしいぞ?」

「そうなんですか…行かなきゃダメですよね?」

「当たり前だろ?送別会終わったら、久し振りに二人で飲もう」

「はい…行きたくないなぁ…」

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