心の距離
どうする事も出来ず、真っ暗な部屋の中で、泣きじゃくる彼女をただ抱き締めているだけ。

…心の傷が癒えたら、気持ちを伝えようと思ったのに…

悔しさを表すように、彼女を抱き締める腕に力を込めた。

「…苦しい」

少しだけ顔を上げ、小さく呟く彼女。

「…俺もすげぇ苦しいよ」

小さく告げながら彼女の唇に唇を重ね、伝えられない言葉をキスで表した。

ヒデの時とは違い、彼女の体が固まる事は無く、走って逃げ出す事も無い。

僕のキスを受け入れながら、背中に手を伸ばす彼女。

ゆっくりとうつむきながら唇を離し、彼女の心臓の上に手を当てた。

「…また傷付いちゃったね。…早く良くなれ」

「…癒してくれる?」

「良いよ。…今日は我慢しないからね」

『最初で最後だから』

言葉が出ないように唇を重ね、彼女を抱き抱えながらベッドに潜り込んだ。

「…お願いがあるんだ」

「何?」

「…何も言わないで欲しい。何も言わないで、全部夢だって思って欲しいんだ。夢なら傷付く事も、傷付ける事も無いからさ」

黙ったまま小さく頷く彼女。

いつか見た夢のように、彼女の肌に…彼女の悩ましい声に夢中になり、僕らは一つになった。
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