心の距離
サービス玉をスタートチャッカーに入れ、ことみちゃんはニッコリ笑いながら告げてきた。

「お待たせしました」

軽く会釈をしながら席に着くと、台は派手な音と共に、全回転リーチをし始めた。

呆然としながら台を眺めていると、全回転リーチは確変絵柄で止まってしまった。

「…消します?」

「いえ、そのままで大丈夫ですよ」

「でも…」

「サービス玉ですから、お客様の出玉です」

「…ありがとうございます」

…お客様か…

夢の中ではあんなに話しているが、現実では名前も知られて無い。

自分にとっては、女性として気になる存在だが、彼女にとって僕は常連客の一人。

残酷過ぎる程、無情に思える現実に、ため息ばかりがこぼれ落ちた。

ため息がこぼれ落ちる度に出玉は増え、気が付くとことみちゃんの引いてくれた当たりは大爆発。

自分の中で決めた時間を遥かにオーバーし、結果は12万のプラス。

翌日が休みのせいか、焦って帰る事も無く、勝った喜びと、名前を知られていない切なさを引き摺り、複雑な気分のまま帰宅した。

< 20 / 138 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop