心の距離

口実

翌日、胸を弾ませながら会社に向かったが、集合時間は彼女が出勤する相当前の時間。

仕事を終え、会社に戻った後、報告書を手に事務所に向かっても、彼女の姿は無く、社長が居るだけだった。

「社長、神田さんって居ないんですか？」

「定時で帰ったよ。どうした？」

「報告書渡しに来たんですけど…」

「デスク置いておけば良いよ。どっちにしろ明日やるからな」

「…昨日は残ってましたよね？」

「みんなに紹介するから残ってて貰ったんだよ。何かあったのか？」

「いえ…お疲れ様です」

辛い現実を叩き付けられ、重い気分のまま帰宅した。

…世の中甘くねぇな…

シャワーを浴びながらため息をつき、昨日の事が夢のように思えた。

シャワーを浴びた後、部屋でビールを飲んでいると、母さんが帰宅してきた。

「ただいま～。どうぞ。あがって」

「お邪魔します」

突然聞こえた愛しい声。

慌てて姿勢を正し、聞き耳を立てた。

「ホントにありがとう。ご飯食べて行ってよ」

「いえ、また今度の機会にします」

「帰っても一人なんでしょ？荷物持ってくれたお礼したいし、食べて行ってよ」

「お礼なんか良いですよ。お邪魔しました」