心の距離
慌てて引き止めに行こうとしたが、ダサい部屋着姿を彼女に見せるには抵抗がある。

着替える時間も無く、玄関の閉まる音が小さく聞こえるだけだった。

…マジで何してんだ?家に居るんだから、部屋着で居たって良いだろ?…

ため息をついた後、缶ビールを一気に飲み干し、ベッドの上で気持ち良さそうに眠る猫を眺めた。

こいつが彼女だったら良いのに…

こいつが本物のことみちゃんだったら良いのに…

猫を眺めながらいつも思う事。

悪戯心に火が点き、気持ち良さそうに眠る猫の鼻をつまむと、ウザそうに前足で手を払おうとしていた。

本物の彼女にこんな事が出来たら…

本物の彼女が鼻をつまめる距離に居たら…

八つ当たりをするように、猫の頭を強く撫でた後、空き缶を片手にリビングに向かった。
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