心の距離
仕事を終え、タイムカードを押した後、いつもならタバコを吸ってから帰るが、この日は違っていた。

「瞬？タバコは？」

「目当ての台あるから先に行く」

ヒデの言葉を聞き流し、急いでシャワーを浴びた後、ことみちゃんの居る店に急いだ。

夢の中に出て来た彼女と、現実に居る彼女が本当に同じ人物なのか確かめたかった。

別の人物であって欲しい。

そうすれば、彼女の事を今以上、気に止めなくて済む。

店の中に入ると、大島さんの笑い声が耳に飛び込んだ。

大島さんが陰になっているせいで、誰と話して居るかわからない。

「こんばんわ」

大島さんに歩み寄り、軽く会釈をしながら挨拶をした瞬間、眉間に弾丸を撃たれたような衝撃が走った。

「よう！見ろよ！ことみ、彼氏にフられたんだって！」

「フラれてません！つうか、そんな人居ないし！本当にフられてたら、泣いてますよ？」

笑いながら話している二人の横で、ただ呆然と立ちすくむ事しか出来なかった。

黒く長かった髪が、たったの一晩過ぎただけで、茶色いショートボブになってしまっていた。

想定外過ぎる出来事に、少しだけ寂しさが襲いかかってきた。

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