空をなくしたその先に
「ディオ、娯楽室行くぞ」


最初に根をあげたのはフレディだった。

部屋の中の空気が重い。

ダナは椅子の上に丸まったままだし、
イレーヌは目の前のテーブルに本と甘いものを積み上げてロマンスの世界へと旅立っている。

この静寂を破るのは、悪魔に喧嘩を売ることのように思われた。

ディオとフレディがサロンカーの扉を閉めたとたん、
はじかれるようにイレーヌは立ち上がった。

椅子の上で膝を抱えているダナの肩に手をかける。


「ロマンス小説はお嫌いかしら?」


気分じゃない、と言おうとしてダナは言葉を飲み込んだ。

イレーヌの瞳が開いて中を眺めていたケースに落ちている。

ヘクターの残してくれたエメラルド。

ふっとイレーヌの目が優しくなった。


「大事なものなのでしょう?ケースごと落としたら大変ですわ」


< 289 / 564 >

この作品をシェア

pagetop