空をなくしたその先に
イレーヌは、本棚の本を選んでいた。

彼女が言うには、
旅の間は頭を使わなくていいものしか読みたくない、

という理由でロマンス小説しか置いていないらしいのだが。

夜の貴婦人、背徳に招かれて、太陽に恋して、恋はひそやかに、黒い瞳の盗賊、とタイトルだけで眺めてみてもお腹いっぱいになりそうだ。

頭を使わなくても読める本は他にいくらでもあるだろうとディオは思うのだが、イレーヌの趣味なので文句もいえない。


「禁断の恋、人目を忍ぶ情事って、素敵ですわ」


とうっとりした顔をされたら、文句をいう気力もそがれてしまう。


ダナは大きな窓に面して置かれた椅子の上に丸くなっていて、
ディオの方など見向きもしなかった。

話しかけたフレディにも、わずかに首をふってみせるだけだ。

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