空をなくしたその先に
「追いつかれないように頑張ってよね。

追いつかれたらあたしだって役に立たないわよ?」


こちらは自嘲気味な笑みを浮かべて、ダナは慎重に気配をさぐる。

発砲すればこちらの位置を知られることになる。

外すわけにはいかない。

機会を逃さず、引き金を引く。

ただそれだけだ。

聞こえてくるのはエンジン音だけではない。

遠くで獣が鳴く声がする。

木の葉がざわざわという。

夜の世界も無音というわけではない。

聞こえてくる音の中から、必要なものだけをすくいあげる。

耳をすませて……すませて、引き金を、引く。

爆発音とともに、敵の車が横転する。


「あと一台!」

「よくやった!」


代償は、向こうからの弾。

狙いをそらそうとルッツは、ハンドルを切る。


「しま……!」


ルッツの声が終わるより先に、車が横倒しになった。

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