ゼロクエスト ~第1部 旅立ち
それにしてもこの魔物の女性、果たして本当に『魔王』なのだろうか。

私の想像していたような禍々しさは感じられなかった。寧ろそこには、無機物があるかのような印象さえする。

(まさか、完全に気配を消している?)

私たちでも簡単に消すことはできるが、これほど完璧にはできない。せいぜい下位クラスの魔物をやり過ごす程度だ。敵に集中力を駆使されれば、直ぐに見つかってしまうだろう。先程のリチャードもある程度の気配は消している様子だったが、ここまで完璧なものではなかった。

「魔王! さらった人間を何処へやった!? そして俺はお前を倒しに来たのだ!!」

アレックスは再びよろよろと起き上がると、女に向かって指を突きつけた。

「貴様は何か勘違いをしているようだな。わらわは魔王様ではない」

「ならば、その魔王を出せ!」

女はククク…と、喉の奥で可笑しそうに笑った。

「面白いことを言うな。魔王様が生きておられた時代は、一体どれ程前なのか。気の遠くなるような時間だぞ。とうに亡くなっておられるだろうが。いるわけなかろう」

あっさりと否定する。
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