Tea Time Romance
 日課のように運んでいたティカップをテーブルに置き、意を決して彼女に声をかけようとした。

「あの……」

「何?」

 彼女の深い色の瞳が、僕を射すくめる。とたん、用意していたはずの言葉を失ってしまった。

「何でもないです……すいません」

 訝しげな彼女の視線に狼狽し、僕は顔を伏せた。
 代金を受け取り、慌ててキッチンに戻る。一部始終を見ていたマスターが、仕方ないな、という表情で立っていた。

「……帰り際まで待てよ。想いを伝えるだけじゃ、罪はない」

 僕は何も言えず、立ち尽くすばかりだった。
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