甘い魔法―先生とあたしの恋―
「でも、本当にびっくりした」
20時過ぎ、部活帰りの和馬があたしの部屋に来た。
『すぐ帰るから』って、ドアの前での立ち話。
部屋に上がろうとしないのは、和馬なりにこないだの約束を意識してくれてるからなのかもしれない。
「ごめんね、急に泣いたりして……でも、もう大丈夫だから」
笑ってみせると、和馬はなぜかあたしから視線を逸らす。
そして、小さく笑顔を作ってそれを歪ませた。
「実姫さ、かまうなって言うなら、そんな顔して笑うなよ。
実姫がそんなだと、俺確実に約束破るよ。
超心配して、実姫がちゃんと笑うまでずっと周りをうろちょろすると思う。
……すっげぇうざくね?」
和馬の言葉に、吹き出して笑う。
「それはうざい」
「だろ? ……そうされたくなかったら、いつもの実姫に戻れよ。
矢野センも、実姫も、明らかにおかしいじゃん。
実姫達がそんなんじゃ、俺彼女も作れないし」
優しい笑みを交えて話す和馬に、あたしも笑顔を返した。
慣れない遠慮がちな優しさに、胸が痛くなった。
「そだね。
和馬だって彼女作らないとね。……吉岡さんは?」
「……まぁ、悪い子ではないと思うけど。
一度向き合ってみるかな。……機会があったら」
「機会があったら?」
「まぁ、いいじゃん。そのうちだよ。そのうち。
じゃあ、俺帰るから」
誤魔化しながら、片手を上げた和馬に、あたしも手を振る。
大きなスポーツバックを揺らして階段を下りる和馬の後ろ姿を見送って、部屋に入ろうとした瞬間……
先生の部屋のドアが視界に入った。