私、海が見たい
----- 28年前、春 -----
夕方だが、まだ明るい。
小雨が、降っていた。
相合傘の二人が、公園の高台に立って、
海を見ている。
前には、海が広がっている。
中村は恵子の左肩に手をまわしていた。
右手には傘。
「あー、やっぱり海はいいわね。
見ていると心が洗われる気がするの」
「恵ちゃん。俺は……」
そう言いながら、
肩に回した手に力を入れると、
恵子の上体から力が抜けた。
中村は、恵子の体を引き寄せ、唇を重ねる。
恵子の手にしたバッグが落ちた。