私、海が見たい
~~~~ 婚約 ~~~~
-- 28年前、夏。恵子の実家 --
座敷に、恵子、恵子の兄、恵子の姉夫婦が
一列に座っている。
座卓を挟んで、その前に、
中村が正座して座っている。
中村は、居心地悪そうに、もぞもぞしていた
恵子の母、孝子が、お茶を持ってきて、
中村の前に置き、恵子の横に座る。
孝子が話を切り出した。
「ごめんなさいね。こんな所に呼び出して。
まず、みんなを紹介しましょう。
恵子の兄とは会ったことありますよね。
孝之です。
それから、恵子の姉で、満子。
今は名古屋にいます。
そして、満子の旦那さんの浩二さん」
恵子の姉夫婦が、中村に会釈する。
「たまたま、お盆で帰ってきていたので、
今日は同席してもらうことにしました」
中村は、緊張した顔で、
正座して、座っていた。
「今日、中村さんに来てもらったのは、
実は………
この子、いくら言っても、
お見合いをしようとしないので、
問い詰めたら………、
あなたのこと忘れられないって
言うんですよ」
中村が、恵子を見ると、
恵子は下を向いて、手を見ている。
「だからこの際、中村さんの気持ちを
お聞きしたいと思いまして。
いろいろあったとは思いますが、
あなたは今、
どういう考えを、お持ちですか?」
「俺……いや、私は………
恵子……さんのこと………、好きです。
できれば、結婚したいと思っています。
でも、私はまだ学生ですし、
先のこともはっきりわからないので、
なかなかそれを言い出す事は
できませんでした」
そう言って、中村は恵子の方を見るが、
やはり恵子は下を向いて、指を見ている。