追憶のマリア
「こっちには人質がいるんだ。」


　俺は思わずカッとなって、言葉に力を込めた。


　そんな自分の気を静めようと、一度薄く息を吐き、呼吸を整えて、


「彼女を助けたい…。」


　今度は静かに言った。


　彼女を無事家に帰すこと、それは彼女との永遠の別れを意味している。


　それでも構わなかった。


　それでも俺は、彼女を救いたかった。


「もう待てない。俺が彼女を殺らなきゃ、れんに殺られる。」


「お前の気持ちはわかるがなぁ、こうしてる間にも、善悪の区別もつかないような子供の身体がドラッグに蝕まれているんだ。」


　青山さんはいつも、正論でかぶせてくる。


　そうやって、俺の中のわずかに残っている善の部分に巧みに呼びかける。







「４日後だ。」


　俺はそう言い放って席を立ち、上着のポケットから出したタバコの箱から一本くわえて抜き出した。


「いい加減タバコやめたらどうだ？身体に悪いぞ。」


　俺のヘビーぶりを良く知る青山さんが、呆れたように言った。


「今俺がやってることの方がよっぽど身体に悪いさ。」


　俺はそう吐き捨てると、足早に立ち去った。




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