恋雫
そこには、傘をさしたジャージ姿の総悟がいた。
「…なんで…」
「なんでって、ここ、俺ん家でもあるし」
傘を畳んで、水をきっている。
「で、なんで泣いてんだよ」
「べ、別に泣いてなんかないもん」
「じゃあ、なんで目ェ腫れてんだよ」
「腫れてないもん」
私を見下ろしている総悟が、
しゃがんで私と目線を合わせる。
頬に触れて、親指で涙を拭く総悟。
「この涙は、なんだよ。泣いてたしかねェだろ」
「………」
「なんか、言えよ」
「………」
言わないんじゃなくて、
言えないんだよ。
男子に、こんなこと…話せないもん。
カッコ悪いし、こんな情けないこと、言えない。
「…何かあったか?」
「……」
総悟は、少し困ったようにため息をつく。
「雨止むまで、俺ん家くるか?」
「……ん…」
家に帰りづらい私は、
総悟の問いに、うなづくことにした。