自分探しの旅

第12話 「一休宗純」

 それから二十年がたった。

 円心は総本山での長い修行の年月を経た後、近江の國の琵琶湖にほど近い村の、智海寺という寺の住職になっていた。しかし住職とは名ばかりで、誰も継ぎ手のない廃寺寸前だった寺に赴き、居着いて三年になる。弟子もとらなかった。従って生活は貧乏を極めた。生活の糧は、自らまわる托鉢によって賄われていた。

 円心は日々の暮らしを淡々と過ごした。そして、禅僧としての自分を見失うことはなかった。総本山でも、円心の才能は目を見張るものがあった。望めば僧職としての地位をのぼりつめることも可能だった。それを敢えて、自ら民衆のもとで托鉢にまわり、極貧の生活に身を投じたのも、「日々是修行なり」の思いがあればこそであった。心の底に常にあるのは、あの日阿蘇の山の頂で見た光景だった。円心は、そこに来世の存在を達観していた。円心にはこの世の栄華や権力などというものは、はかなく思えていた。
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