自分探しの旅
「私はもう生きていても仕方ありません。」

円心には師をなくした宗純の気持ちが痛いほどよく分かった。かつて自分がそうだった。だが、死をもって気持ちが癒されることはない。

「宗純。君の師匠は君が死んだところで喜びはしないぞ。」

「・・・」

 宗純の虚脱感は簡単に消えるものではなかったが、宗純は若いとはいえ、さすがに禅僧としての才に恵まれていた。以心伝心。円心の心像に映る大黒天を、ほとんど本能的ともいえる嗅覚で嗅ぎとっていた。このとき、宗純の心に何かの変化が起きようとしていた。若いときの円心がそうであったように。

「宗純。落ち着くまで暫くここにいるがよかろう。」

「ありがとうございます。」
< 108 / 196 >

この作品をシェア

pagetop