自分探しの旅
「ホットコーヒーを二つ。」
吉村はメニューを受け取らずそう言うとコートを脱いだ。黒い無地のセーターが歳のわりに落ち着いて見えた。
「実は今日のことなんですが・・・あっ、と言ってももう昨日になっているのか。あなた、龍仁さんから前世療法を受けましたよね。」
「うん。」
「それで、円心という室町時代の臨済宗の僧侶があなたの前世だと知ったはずです。自分の前世を知ること自体は問題ではない。優れたセラピストがいて、本人の心を開く準備ができていれば、誰だって自分の前世を知ることはできるんです。ただ京介さん、あなたの場合問題なのは、大黒天と契約してしまったことなんです。」
京介はこのとき、コートのポケットの中に大黒天を入れてきているのに気づいた。手を突っ込んで、木の感触を確かめてみる。それは一連の身の回りに起きている現実離れした出来事を、現実へとつなぎ止める唯一の存在だった。
吉村はメニューを受け取らずそう言うとコートを脱いだ。黒い無地のセーターが歳のわりに落ち着いて見えた。
「実は今日のことなんですが・・・あっ、と言ってももう昨日になっているのか。あなた、龍仁さんから前世療法を受けましたよね。」
「うん。」
「それで、円心という室町時代の臨済宗の僧侶があなたの前世だと知ったはずです。自分の前世を知ること自体は問題ではない。優れたセラピストがいて、本人の心を開く準備ができていれば、誰だって自分の前世を知ることはできるんです。ただ京介さん、あなたの場合問題なのは、大黒天と契約してしまったことなんです。」
京介はこのとき、コートのポケットの中に大黒天を入れてきているのに気づいた。手を突っ込んで、木の感触を確かめてみる。それは一連の身の回りに起きている現実離れした出来事を、現実へとつなぎ止める唯一の存在だった。