自分探しの旅
 まるでそれは映画のワンシーンのようだった。しかしそこに映っている自分の姿は夢でも幻想でもない。現実の明日の自分自身だった。
 自分の中に答えがある・・・京介は円心の言葉をあらためて思わずにはいられなかった。「自分」はすでに、行くべき所を知っていたのである。人間という生き物はどんな環境に置かれてもそれに適応しようとするものらしい。京介は自分の身に次々と起こる不思議な出来事を、いつの間にか受け止めるようになっていた。

 次の日の夕方。まだ日も暮れやらぬ頃から、神社の境内には続々と人が集まっていた。いやがおうにも祭りのムードは高まっていく。お堂には、大小の和太鼓が四~五台セットされ、垂れ幕が張られている。スポットライトは静かにそれを照らしている。京介と由香里は人垣に混じって祭りが始まるのを「今か今か」と待っていた。
 やがて日も暮れ篝火に火が灯されると、境内では地元の氏子たちが縄の先に火をつけはじめた。そして神社のお堂には、白地の上着に朱色の袴姿の巫女たちが五~六人現れた。その中の一人が手にしている物に京介の目は釘付けになった。

「小笛だ!」

 黒塗りのその小笛は暗くてよく分からぬが、いかにも歴史を感じさせる一品のように見えた。京介は胸が高まっていく。

(ドンドンドンドン)

 太鼓の合図とともに祭りが始まった。何人もの氏子たちは、火をつけた縄を一斉に回し始めた。炎は暗闇の中、美しい曲線を描いていく。炎は太鼓のリズムに乗って生き物のように宙を舞い、幻想的な姿をうつし出す。まもなく小笛がそれに併せて吹かれ始めた。

『ああ・・・』

 京介にとってその美しい音色は確かに聞き覚えのあるものだった。
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