自分探しの旅
「こんな夜は酒を飲むにかぎる。」

そう言ってはここのところ毎晩飲んでいる。サイドボードに並んだビールの空き缶がそれを物語っていた。
 今夜も酒臭い部屋でアルミ缶を片手に、一人コンピューターの画面に向かう。そこは唯一日頃の喧噪からの逃げ場所だった。テレビチューナー内蔵のコンピューターの画面で、テレビの窓枠を画面右下に小さくとっての、トランプゲーム。配られてくるカードを片づけることに視線を向けながらも、耳に入ってくるテレビの声を頭の中で追っている。京介は壊れたおもちゃのように何度となくマウスを動かしてはゲームをくり返していた。
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