君の瞳に映る色
母はすべてを知ってるのだろう。
だから何も連絡が
なかったのかもしれない。
菖蒲がやっていることなのだから
相談することが無意味なのは
容易に想像がついた。

「まだご体調もよくありませんし
私の方から奥様に…」

「柊」

言葉を遮るように棗は目の前の
執事の名を呼んだ。

「ゲージを用意してくれる?」

棗は笑顔を作り、柊を見た。

「この子を連れていくから。
ここに置いてたらお母様に
捨てられちゃうわ」

柊は沈痛な面持ちで棗を
見ていたがやがて、
かしこまりましたと頭を下げた。


柊が去ると棗はドアに
凭れかかった。

櫂斗とうまくやっていく自信など
微塵も感じない。
恐らくこれから自分の身に
起こるであろうことを想像すると
身の毛がよだつ。

母と話がしたいと心底思った。
せめてどういうつもりなのか
母の口から直接聞きたかった。



その願いが叶うこともなく
棗は東條家の車に乗りわずかな
荷物とともに屋敷を出た。









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