君の瞳に映る色
あの家では菖蒲の言葉が
法律のようなものだ。
自由の少ない孫のことを
暁生は不憫に思った。

「ところで彼の話は
いつしてもらえるんだい?」

不意の暁生の質問に
彼?と棗は首をかしげた。

「ふわっとした茶色の髪に
綺麗な瞳の美形の彼のことだよ」

「おじい様!勝手に見ないでよ」

玲の顔を思い浮かべたことを
知られて棗は恥ずかしくなった。
暁生が人の心を読めることを
すっかり忘れていた。

「見たんじゃない、見えたんだ。
いいじゃないか、お前も年頃だ
恋の1つや2つするだろうし
恋人がいたっておかしくない」

「恋じゃないし
恋人でもないわよ!」

思わず暁生を睨みながら
来月婚約パーティーがあるのを
知ってるでしょ、と呟いた。

いいのかと聞きかけてその質問は
愚問だと暁生は思う。

たとえ嫌でも孫は
拒否しないだろうということが
容易に想像できた。

黙った暁生を見て
棗は笑顔を返す。

「前から決まってたことだわ。
わたしは納得してるから」

棗の言葉に暁生は何も言わず
ただ優しく彼女の頭をなでた。


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