エースナンバー
『あいつは越せない』
そう言った上杉の顔が何度も浮かんでくる。
憎たらしい表情だったそいつは、もはや完璧な好青年のように微笑んでいるのに。
□
やがて上杉に連れられてグラウンドに戻る。
練習中の生徒たちの視線が俺に集まった。
「…ちーす」
遠慮気味に挨拶する学生を横目で睨みつける。
空気が…凍った。
「おーい、夏!
客だぜー」
――夏?…どこかで
上杉の叫ぶ声に、マウンドに立っていた人物が反応した。
「客…?」
ワインドアップの体勢を止めて、ゆっくりと振り返る。
―――!!
「おま…お前」
ワナワナと震える俺の唇…
そんなこと気にする仕草も見せずに額の汗を拭うマウンドのそいつ…
「あ、麻生くんだ」
大きな瞳で、しゃあしゃあと呟く。
「なんでお前がそこにいるんだよ!」
俺はそう叫んで…
―――美空 夏
マウンドに立つ、前席のあいつを指差した。