月と太陽の事件簿10/争いの樹の下で
「待ったか、達郎」

達郎が席に座ってきっかり1時間後、1人の青年が店に入ってきて、少年の向かいに座った。

彫りの深い、精悍な顔つきをしている。

幼さを残した柔和な顔だちの達郎とは、対称的だった。

「待ったけど、別に気にしなくていいよ」

達郎は一時の友としていた文庫本を閉じた。

青年はテーブルに置かれた文庫本を見ながら苦笑する。

「お前ぐらいの年齢の男ってのは本には見向きもしないんだけどな」

「そりゃ偏見だよ」

「学校で変わり者扱いされてないか、達郎?」

「兄さんに変わり者扱いされるのは心外だな」

達郎は笑みを浮かべたがその口調には抗議の色が強かった。

「普通、刑事はアルマーニのスーツなんか着ないよ」

達郎にそう指摘され、警視庁捜査一課所属の月見秀昭は「そうか?」という顔をした。

「似合ってるとは思うんだが…」

「論点がずれてるよ」

達郎は苦笑した。

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