電光石火×一騎当千
「無敵が聞いてあきれる」

せせら笑ってカミナルが刀を腰に納めると同時に、瞳から紫の輝きが消える。

「た……タイホウさん、落ち着いてくださいよう」

慌てて声をかけてくるジンヤを無視し、

「てめえ──剣術使いか!」

タイホウは怒鳴りながらかたわらに立てかけてあった大太刀をひっつかみ、抜き放って女に斬りつけようとして──


──女の姿が消えた。


刹那の前まで確かにそこに立っていたカミナルは、「背後から」タイホウの首筋に小太刀をあてがっていた。


「これで一晩に二回死んだな」


瞬きする間に立ち位置を移動した彼女を見て、ジンヤがあんぐりと口を開けて杯を手から落とした。

周囲で飲んでいた他の兵たちが、一騎当千の異名を誇るタイホウが美女に刀を突きつけられているという構図に、何だ何だと好奇の視線を注いで騒いだ。


「何が最強だ恥ずかしい。井の中の蛙め」


赤い花弁のような可憐な唇が辛辣に吐き捨てるのを聞いて、タイホウは頭の中が真っ白になった。

こんな馬鹿な、と思った。

自分がまさかこんな女ごときに、いいように翻弄されるとは……!


「──っこの女ァッ!!」


裂帛の気合いと共に、

すぐそばにジンヤがいることも忘れ、タイホウは真紅の瞳に黄金の炎を灯して大太刀を振り抜いた。


空間が裂け、不可避の斬撃がタイホウを中心とした周囲六間あまりを円形に切り裂く。


ひいい、という声がして我に返ると、ジンヤは腰を抜かしてその場にへたり込んでいて、幸運にも頭上を通過した斬撃から逃れていた。

女は──



──いない!?



タイホウは周囲を見回し、



「三回だ」



耳元で囁かれて戦慄する。



「大海を知ったか? これに懲りたら少しは自重した行動を心がけるんだな」



やはり目で捉えることもできぬ動きでタイホウの真横に回り込んでいたカミナルは、その切っ先をひたりとタイホウの心臓の位置に合わせてそう言った。
< 32 / 46 >

この作品をシェア

pagetop