粉雪-3年後のクリスマス-
「あれれ?機嫌悪いっすね」


 誰のせいだ、誰の!

言いたい気持ちをこらえて、パソコンに向かう。


「あのさ、こないだ頼んだ書類だけどさ……。集計期間は先月だし、数字が全部一つずつずれてるんだよね」

「……そうですか…」

 元から細い目をさらに細め、うなずいている。

いやいやいや、そこは納得するとこじゃないから。


 うなだれる様なキモチで、俺は念のため、彼に伝える。

「…今回は俺がやるから、次から気をつけてね」


 ───お願いだから、仕事を覚えてくれ。


「ユキさんに任せておけばばっちりですねぇ」

 もしかしたら彼は褒め上手なのかもしれないが、本当に切に願う。

仕事を、覚えてくれ。





 朝から幸先悪く始まった業務は、すでに定時を超えていた。


「ユキー、行くぞー!」

 コートを羽織って現れたのは、あの同期。


「先、行っててくれ」

「……なに、残業?」

 顔も見ずひたすらにパソコンに打ち込む。

後輩による余計な仕事のせいで、今日やるはずだった仕事が押しているのだ。


 明日使うこの資料を放り出すわけにはいかない。

カタカタと、もう俺しか残っていない部署に響き渡るタッチの音。

同期は、いつの間にか空いた後輩の席に腰掛け、回転椅子でぐるぐる回っていた。


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