粉雪-3年後のクリスマス-
Powedery snow
 きゅう、と腹の虫が泣くくせに、足は根が張ったように動けなかった。



 調査会社から教えられたのは、氏名と住所、それと生年月日だった。

どうやらこの三点は芋づる式に判明したらしく、俺からのわずかな情報を頼りに特定して教えてくれたそうだ。


「更なる調査は必要でしょうか?」

「……いえ、十分です…」

 それくらいあれば十分だ。

回らない頭でどうにかお礼をいい、謝礼金について聞いてみた。


 すると、

「いいえ、結構です。もう御代は頂いておりますから」

と、とてもにこやかに返される。


 俺はどこまでも大馬鹿者なのか。

同期はそれさえも見抜いたかのごとく、すべてを手配していてくれたというのに。


「がんばってください」

 電話が切れる前の担当者自身の言葉に、俺は心臓を握られた。


 そうだ、これから先は俺自身の問題だ。

そして少なからず、俺のために動いてくれた人がいる。



「格好つけやがって……」


 まだ落ち込んでいるであろうあいつに、差し入れくらいしてやるか。


 サラリーマンで賑わう牛丼屋の暖簾をくぐり、小銭を握り締める。


「すいません、テイクアウトで」

 忙しそうに、けれどパワフルなおばちゃんが出迎える。


「ご注文は?」

「大盛り、二つ」


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