粉雪-3年後のクリスマス-
 オフィスに戻ると、お弁当組みの女の子たちが会議室で笑いあっている。

デスクにはパソコンとにらめっこしながら食事している人や、腕に顔をうずめてわずかな仮眠をとっている人もいた。


そんな中の、同期の机には誰もいなかった。


「かばんも携帯もある、か……」


 どうやら席を外しただけみたいだ。

ほんわかといい匂いを香らせた袋をひとつ置き、俺は自分のデスクに戻る。

かぱっとふたを開ければ、たまねぎと一緒にくったりと煮込まれた俺の昼飯。


割り箸を早速割ったときだった。


「あれから、どう?」

 タイトな黒いスカートがちらりと視界に入り、イヤらしくもつばを飲み込んでしまった。

そっと見上げれば、腕を組をしたまま見下ろす先輩だ。


「び、びっくりした……」

「いやぁね、もう。人をお化けみたいに」

 くすくすと笑う素振りは、まさにオネエサンってかんじで緊張が走る。


「彼、まだ切羽詰ってるみたいね」

「そうですね…俺の話も、聞いてもらえなかったし」


 ろくな事を言えているわけじゃないけど、さ。


「さっき帰ってきたんだけど、彼とばったり会ってね。
……ユキくんに申し訳ないことしたって落ち込んでたわ」


 ただ単に、気を使わせてしまっただけではないのだろうか。

ほんの少し牛丼を口に運んで、俺はさっきの余裕がない同期の表情を思い出す。


「ねえ、ユキくん。フラれちゃったって、本当?」


 先輩の言葉に、ぐふぉっと牛丼を噴出してしまう。

同期のことを考えていたというのに、急に自分の事に触れられ、動揺を隠せなかった。


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