粉雪-3年後のクリスマス-
「やだ、ユキくん、大丈夫?」

 すっと出てきた薄紅色のハンカチ。

意外と先輩も女性らしいんだな、なんて思いながら拝借する。


 咳払いをし、気を取り直すように、デスクにおいてあるもうさめてしまったコーヒーをごくりと飲み込んだ。


「いきなり、なんスか……」

「さっき彼から聞いたのよ。大失恋直後のアイツなんかに気を使われた、ってね」


 おどけてみせる先輩の言葉に、同期を少しうらんだ。

まったく、先輩には情けないところばかり見られている。


少しは成長したところをみてほしいのに、ちっともそれがなされていない自分が悔しい。


「まあ、今はそれほどショックじゃないというか……」

 本当は未練たらたらだけれども。

他に気にかかることができてしまって、幸いなことに、カノジョのことを考えずにすんでいる──というのが現状だ。


噴出してしまった分を補おうと、大きく牛丼を一口ほおばる。


 つい先ほど不意の電話により『彼女』のことを思い出させられ、俺にひとつの使命を与えた。


これを終えてから、もう一度自分のことを考えてみよう。



 同期はピリピリするし、先輩になぜかあおられるし。

緊張ばっかりで、味を見失いそうになる。


「──じゃあ、さ」

 もぐもぐと口を動かす俺に、先輩がそっと顔を近づけてきた。


こんな俺に、なにか相談でもあるのだろうか……




「あたしと付き合ってみない?」

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