【短編】淫らに冷たく極上に甘く
「……白崎くん。いいかげん教えてくれる?」
「ん?」
「とぼけないでよ」
あの後すぐ、雪が激しさを増して強風が前から吹き荒れてきた。
それらから逃れるように、目の前の公園にあるタコの形をした滑り台の空洞に入った私たち。
雪が侵入してこないこともないけれど、吹雪く外よりは断然に風も雪も凌げた。
だけど狭くて。
ドーム型の空洞の中で、体は寄り添うようにぴったりと密着していた。
「落ち着くまで待つしかないな」
「あ、またはぐらかした。ねぇ、私、白崎くんに会ったことあるの?」
「……はーちゃん」
「……はぁ!?」
この状態をスッカリ忘れて、横を振り向いてしまった私。
ポツリと呟いた彼はいつになく真剣な面持ちで、私の顔を見つめていた。
間近で視線が絡まって息を呑む。
目にかかる前髪にのっている雪がジンワリ溶けていき、その奥の透き通るような瞳に吸い込まれそうになる。
風に踊らされ舞い散る雪に白い吐息が混じり合う。
それはだんだんと近づいて……。
冷たい感触が唇に触れたかと思うと熱を帯びた。
温もりを確かめるような重なりあうだけのキス――……。
何で避けなかったのか。
それは定かではない。
けど、この時の私は、ただ彼の瞳に囚われてしまっていた……に違いない。