【短編】淫らに冷たく極上に甘く
――バタンッ!!
家に走り帰ってきた私は勢い良くドアを閉め、ズルズルとその場に崩れこんだ。
はぁはぁ……はぁはぁ……。
自分が信じられない。
「また、キス……しちゃった」
一度ならず二度までも。
一度目は学校からの帰り道、偶然会った(と言っても本当に偶然だったかどうか)白崎くんに連れられて不意打ちで。
だけど二度目は?
避けられることだって出来たのに避けなかった。
唇を指でなぞってその手を見つめる。
胸は未だに激しく鼓動する。
「あーっ、もう!!」
頭をクシャクシャにかきむしってため息をつき、ゆっくりとその場から立ち上がった。
部屋に戻ってからも頭の中は彼でいっぱいで、片付けの途中だったダンボールを見て再びため息が漏れる。
「ただいまー」
気付けば時間は七時を過ぎていた。
お父さんの帰宅した声を聞いて、現状を確認してしまう。
散らかしっぱなしだし、ご飯も作ってない。
「と、珍しいな。葵が何もしていないなんて」
この現状を見て驚いているお父さんに「おかえり」と苦笑いしか浮かべられず。
だけど今までちゃんと家事をこなしていたから、今日は外食にでもしようかとお咎めも受けずにホッと肩を撫で下ろした。
「あれっ、何か落ちてるぞ。……と懐かしいな」
「えっ、何が?」
お父さんが拾い上げたのは、彼が来る前に床に落ちた一枚の写真だった。
私も近づいてその写真を覗きこむ。
「……はーちゃん、と?」
裏面にお母さんが書いたらしき文字。
写真に映るのは家の近くにあった公園。
そして、私と寄り添うように映っている子。
……これ、は。