運命の歯車-不思議の国のアイツ-
「御園さん、大丈夫?ずっと、うつむいているけど、気分悪いの?」
アヤは、クラスメートに話しかけられて、ようやく、すでに午前中の授業が終わり、昼休みに入っていることに気付いた。
「うん、平気。ありがと。」
アヤは、声を掛けてくれたクラスメートへ、いつもの作り笑いを浮かべた。
ただ、その作り笑いは、普通の人が見破れるようなものではなく、一流の詐欺師が浮かべるような一片の隙もない最上級の笑顔だった。
そのアヤの笑顔を見て、うれしそうにアヤの側から離れていくクラスメート。
そんなクラスメートが、完全にアヤから視線を逸らすまで、最上級の笑顔を浮かべていたが、視線を逸らした時点で、アヤは、困ったような表情へと変化した。
(・・・どうしよう?)
午前中、アヤの心の中は、この言葉に占められていた。
その原因は、アヤが、学校へ登校してきた時にあった。
登校してきたアヤをリョウが待ち伏せていたのだ。
その時、アヤは、久しぶりにリョウと話した気がした。
実際は、話してない日数は、ほんの数日だったが。
「昼休み、屋上に来てくれ。」
リョウは、それだけをアヤに伝えると、アヤの返事を聞くことなく、すぐにアヤから離れていった。
アヤにとって、今、リョウに会うのは、はっきり言って、身を削るようにきついことだった。
いや、身を削ると言うよりは、心臓をヤスリでゆっくりと削られているように胸に痛みを覚えることなのだ。
しかし、ずっとこのままというのも、アヤには、気が引けた。
これからの長い人生を、この後悔と一緒に過ごすことを考えれば、リョウとの関係は、はっきりとさせていた方がいい。
少しでも、その後悔を減らせるように、一生懸命に今、リョウと向き合うことによって。
例え、それが、アヤにとって、望まない未来へと続く道だとしても。
(・・・行こう。)
アヤは、決心して、イスから立ち上がり、教室を出て、リョウが待っているはずである屋上へと向かって行った。