I ─アイ─



…ザァー…



激しい雨の中、近所の公園の入り口前にあるバス停で、待つこと数分。



…プシュー …ガシャン!


バスのドアが開く音と共に、お母さんが降りて来た。


『…奈々?…どうしたの?』


にっこり笑って、赤い大きな傘をお母さんに差し出す。


あたしはこの時、"お母さんの役に立った"そういう自分の思い込みで、胸がいっぱいだった。


勝手に喜んでくれる事ばかりを想像して、期待して、嬉しくなる。



本当に大事な事は、

迎えを喜んでもらう事でも、
家事をほめてもらう事でもない。


気づかなかった。…何も。


この時、お母さんがどんな顔をしてたのか。




『…ありがとう。奈々』

お母さんもにっこり笑う。



そんなお母さんの愛想笑いとは裏腹に、あたしの心は跳ね上がる。



洗濯物もお掃除も、食器も夕食も、


お母さん喜んでくれるかな…?


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