I ─アイ─



『…奈々?どこへ行くんだい?』


帰ってきたお父さんが言う。

家の前の大きなお庭。



『…お母さんの…病院…に…』

あたしはうつむき、小さな声でささやいた。




『……そうか……。

じゃあ、お父さんが送ってあげよう。

自転車じゃ危ないからね。』



『…! …ありがとう…』




車で二人、沈黙が20分程続いていた。



車の窓、わずかに開いた隙間から心地よい風が髪を揺らす。




窓から見る景色。



いつも目が行くのは、幸せそうに手を繋いで歩く家族。



それと反比例するように、あたしの幸せは、どんどん崩れて行く気がする。




あたしは、手を繋いで貰った事がない。

かと言って、自分から繋ぐ勇気もない。



……本当は知っていたんだ……


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