Chess
僕は――

守ることにした。

ルークはなんとなく好きなのだ。

失いたくない。

h3のルークをf3へ。

少なくとも、これでルークに危害は及ばない。

さあ、次、君はどう僕を揺さぶってくるつもりだ……?

視線をあげると、彼女は人差し指を宙で泳がせていた。

右へ、左へ、右へ、左へ……

まさか、「神様の言うとおり」だろうか。

やがてぴた、と止まった人差し指は、ルークを摘まんだ。

また鏡写しか!

思った僕は、早とちりだった。

黒のルークは、h6からe6へ。

僕のルークより一歩多く横へ動いていた。

彼女はここで、鏡写しをやめたのだ。

つまりこれからが、本当の勝負というわけだ……

自分の攻め方を考えていけばいい。

彼女の陣営の穴はどこだろう。

穴はなくても、こちらから突撃して、敵陣を崩せる攻勢を作ればいい。

まだゲームは始まったばかりだ。

戦場も、まだ荒れちゃいない。

そうとも、まだ遊びの時間と考えればいいんだ。
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