とんでも腐敵☆パートナー
「そんな……尾行を止めるだなんて。私に死ねと言うんですか!?」
 
 女は大袈裟によろめいて言った。
 
「それが死に値すると言うなら、むしろ力ずくででも止めさせたいところだが」
 
 はっきり言って死んで欲しい。
 俺の平穏と日本のためにも死んでくれると大いに助かる。
 
「ひどい……ただちょっと視覚的に楽しませてもらってるだけなのに。無害な腐女子のささやかな楽しみを奪おうだなんて」
 
 思いっきり有害だ。
 
「こうなったらあの彼に全てバラして修羅場観賞としゃれこんでやりますうぅぅっっ!」
 
「待て待て待て待てっ!」
 
 目に物騒な光を宿らせ、走って外に出て行こうとする女の腕を、俺は慌てて掴んで止めた。
 
「離してください攻めノ介!」
 
「誰が攻めノ介だ! どこまで危険人物なんだこの女っ!」
 
 ビルの無機質なコンクリートの壁に、女の腕を縫いとめる。
 
 第三者が見たら誤解されかねない体勢だ。拝島に万が一見られたら……ぞっとする。
 
 大学に入学した当初から目を付けてたのだ。同じ科なので、失敗すれば俺の大学生活に支障をきたす恐れがある。なので慎重に慎重を重ね、ゆっくり友人としての地位を得、信頼を獲得してきたのだ。
 
 それを、これまでの苦労を、水の泡にされては堪らない。
 
「あいつに余計なことを一言でも吹き込んでみろ。アンタの人生、ボロボロにしてやるぞ」
 
「それはむしろ望むところです!」
 
「望むのか!」
 
「どうしても尾行が駄目だと言うのなら、止める代わりに交換条件があります」
 
 女は壁に押し付けられ、見知らぬ男に腕を取られてるという状況なのに、強気の姿勢を崩さない。体勢的に不利なはずなのに、何故そこまで優位に立てるのか。そして信じ難いことだが、どうやら俺はこの女の迫力に気圧されているようなのだ。
 
「……交換条件?」
 
「はい、貴方にあるモノを要求します。それをくださるなら、ここは大人しく退きますし、貴方の恋愛成就に協力もします」
 
 女の挑戦的な目が俺を真っ直ぐに見つめてくる。
 
「協力の方は全くいらないが…………あるモノとは何だ?」
 
 俺は訝しげに眉をひそめて訊いた。
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