とんでも腐敵☆パートナー
「アタリ」
 
 眼鏡の奥の、見覚えのある瞳がにこっと優しく笑った。
 
「ちょっとした変装のつもりなんだけど、その様子ならどうやら上手くいってるみたいだね」
 
「す、すごいっ! 全然分かんなかったですよっ!」
 
 ホントにまったく分かんなかった。
 帽子と眼鏡が付加されただけで、随分と違って見えるものなんだ。
 
「ありがとう。栗子ちゃんは……えーと、すごい格好だね……」
 
 何かを飲み込んだような拝島さんの言葉にあたしは誇らしげに胸を張り、
 
「バッチシでしょう! 絶対あたしだって分かりませんよ!」
 
 鼻の下のちょび髭をつるんと撫でた。
 
 そう、さっきのちびっこがおじさんと呼んだのもあながち間違いではない。あたしは付け髭を着けていたのだ。
 
 ちなみに全身を説明すると、弟から借りてきたスタジャンに古びたジーンズ、髪は結んで野球帽の中に隠してる。
 
 いかにもおじさん風の競馬新聞を小脇に抱え、極めつけは黒いサングラス! 我ながら完璧な尾行スタイルだ!
 
「うん……まぁ栗子ちゃんには見えないけど……ある意味そんな格好するのは栗子ちゃんしかいないっていうか……えと、とりあえず、結構目立つよね……?」
 
 あら。拝島さんからのコメントはイマイチ。
 
「目立ちますこれ? サト○レで監視役が着てた基本の尾行スタイルの筈なんですけど……」
 
「いやあれはどう考えても怪し……ごほん。えーと、とりあえずサングラスは取った方がいいと思うな」
 
「むぅ……そうですか。って、それより何故拝島さんがここに?」
 
 あたしより断然背の高い拝島さんを見上げながら、根本的な疑問を口にした。
 
「ん? こないだの感じだと、栗子ちゃん、高地と祥子ちゃんのデートを尾行しそうな気がしたからさ。俺も行ってみようかなって」
 
「はぁ。付き合いいいですねぇ。拝島さんも二人が気になるんですか?」
 
 もしや祥子を気に入ってたり……?
 
 しかしあたしの懸念をよそに、
 
「うん、面白そうじゃん」
 
 そう答える拝島さんのぱっと明るい笑顔は含みがあるようには見えなかった。
 
 ちょっと悪戯っぽい目の輝きが本当に少年のようだ。
 
 くっ眩しい……やるな拝島さん。
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