とんでも腐敵☆パートナー
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『久しぶりね、冬也』
 
 受話器の向こうの声は一瞬俺を動揺させたが、平静を取り戻すのはそう難しいことではなかった。
 
 まるで生まれつき備わってる防衛本能のように、俺の心は素早く切り替わる。
 
「久しぶりですね。何か用事でも?」
 
 冷たくなりすぎないよう声質を調整するのは難しい。他人相手ならともかく、この人相手では、感情の滲みの抑えがききづらい。
 
『母親が息子に電話するのに、用事は必要ないのよ。本当はね』
 
 子供に言い聞かすような揶揄。
 
 そういうところが苛つくのだと、思う時点で、既に子供じみてるのだと、イタチごっこのような思考が瞬時に廻る。
 
 やはりこの人の前では、俺も子供でしかない。いつものことながら。
 
『でも残念ながら、今日の電話は用事なの。冬也にお願いがあって』
 
「いいですよ。俺にできることでしたら、なんでも」
 
 言いながら、『お願い』の出所を頭の中で探る。腹に一物のある人ではないが、穏やかな雰囲気とは裏腹に、この人の引き起こす事態は結構厄介だ。
 
『そう言ってくれると嬉しいわ。今週末、家に帰って来てくれるかしら』
 
「今週末? 急ですね」
 
『あなたに会ってお話したいという人が来るの。夕食でも御一緒しながらどうですかって』
 
 俺に会って話したい?
 
 母親経由で会って話したいと言う人物など、およそ会いたくない系統の人間しか思い当たらない。
 
 軽い眩暈、胸焼けが己の動揺を教えてくれた。
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