とんでも腐敵☆パートナー
「今週末でなければ駄目ですか?」
 
『あちらの御都合で、どうしても今週末がいいんですって』
 
 俺は自分のスケジュールをざっと思い起こした。課題がひと段落ついた今、差し当たって断る口実にできる用事はない。
 
 口実を作ってもいいのだが、逃げてもいずれ向かい合わなければならない事態なら、さっさと直面するのが吉だった。
 
「分かりました。いいですよ」
 
 答える声はそれまでと変わらぬ口調だが。
 
 自分でもそれと分かるほど感情が抜け落ちた声だった。
 
 体の熱が徐々に抜ていき、全身が芯から凍り付いていく。あらゆる物を己から遮断する。
  
 俺は今、息をしてるのだろうか。自分が生きてるのかどうかすら判らない。 
 
 拝島と出会う前の俺は、ずっとそんな状態で過ごしてきた。
 
 俺は――変われた筈だ。
 
 拝島と出会い、人形から人間へと変われた筈だ。
 
 だが、昏い予感は一瞬にして、俺をあの頃の俺――心の死んでた俺へと引き戻した
 
『良かったわ。じゃあ土曜の夕方までには戻ってきてちょうだいね。お父さんも、久しぶりに貴方に会えるのを楽しみにしてるわよ』
 
 
 それは、
 
 どちらの、
 
 父ですか?
 
 
 喉元まで出かかり、遅れて「分かりました」としか答えられなかった。
 
 受話器を置いた後、襲ってくる疲労に耐えかねて、ソファーに深々と身を沈めた。
 
 
 ただ、拝島に会いたかった。
 
 
 
 
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