とんでも腐敵☆パートナー
 実験を終え、妙な疲れに眩暈を感じた俺は、白衣を脱ぐのも面倒で荷物を整理すると即行実習室を後にした。
 
「朽木。もう帰るの?」
 
 背後から拝島に呼び止められ、
 
「休憩室でコーヒーでも飲んでからな」
 
 と答えると、「じゃ、俺も」と荷物を持ち直した拝島が横に並んだ。拝島はどこまでも優しい。俺に気を遣ってくれてるのが容易に分かる。
 
 二人で廊下を進み、自動販売機のある休憩室に向かった。拝島も白衣を着たままだ。しかしこの階は実習室が並んでいるので、白衣で歩く人間は珍しくない。
 
 自動販売機のコーヒーをブラックで指定し、コポコポと液体の流れる音をぼんやりと聞いた。実験に疲れた体はふとした拍子に意識を飛ばす。
 
「なんか疲れてるね、朽木」
 
 拝島に声を掛けられるも返答が一拍遅れた。
 
「ん? ああ……そうだな。ここのところ忙しかったからな」
 
 カップを取り出し、長椅子に向かう。ここの休憩室は部屋の中央に丸テーブルと椅子が数席置かれ、ベージュの革張の長椅子が壁際に並べられてあった。
 
 俺は長椅子に座り、壁に背を預けて息をついた。
 
「確かにやることが多かったよね。調べ物の山だったし」
 
 俺に続いてコーヒーを取り出した拝島が、俺の隣に腰掛ける。
 
 本当は課題のことなど、大して気にも留めていない。実習中に、マウスに逃げられるほどぼんやりしてしまったのは、別のことが頭を占めていたからだ。
 
「そうだな……」
 
 だが今は――近くに感じる拝島の体温がそのことを忘れさせてくれる。気持ちを安らかにしてくれる優しい空気――。ふっと心に熱が生まれた。
 
 もっと、拝島の空気に包まれていたい。
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