とんでも腐敵☆パートナー
 実家の門をくぐり、広々とした庭を横目に扉の前に立った。
 
 門から正面玄関まで数分かかるような大豪邸――というわけではない、この家は。
 
 敷地は一般レベルより広いだろうが、家のサイズは至って普通。家屋への頓着のなさが窺える洋風のありふれた一戸建て。広い敷地は庭に面積を割かれていた。
 
 変わらないな、この風景も――
 
 それだけ力を入れてる庭の景観は、匂いたつような花園でも、情緒溢れる日本庭園でもない。
 
 一言で言えば、ただの畑だ。
 
 味も素っ気もない緑の草が整然と並ぶ奥に、小さなビニールハウスがある。ここにあるものは全て薬草――父の趣味だった。
 
 
「冬也。お帰りなさい」
 
 目の前の扉が開き、清楚で穏やかな雰囲気の女性、しかしどこか儚さを漂わせる女性――母が現れた。
 
「お久しぶりです」
 
 軽く会釈して中に入る。母の後ろには父が立っていた。
 
「お帰り、冬也」
 
 温かな笑みで迎えられる。頬にも目尻にも刻まれた皺は、以前会った時より更に深みを増しているようだった。
 
「お久しぶりです、父さん。ただ今戻りました」
 
 会釈して玄関に上がると、握手を求められたので応じる。少しも力の籠もらない骨ばった細い手――。
 
 ――少し、痩せた気がする。
 
 父の後ろには、更に人影があった。こちらはふくふくとした老齢の女性。
 
「お帰りなさいませ、坊ちゃま」
 
「ただいまです、サエさん。お元気そうでなによりです」
 
 長年朽木家に勤める家政婦のサエさん。今はこの三人がこの家の住人だった。
 
< 211 / 285 >

この作品をシェア

pagetop