とんでも腐敵☆パートナー
 サエさんに案内され、客間に至る。淡いブルーのソファーに腰掛けると、テーブルを挟んで向かい合わせに父と母が座った。
 
 年齢を感じさせない若々しさと美しさを持つ母、実齢以上の深い皺を刻んだ父。実際の年齢差以上の差を感じさせる親子のような夫婦だ。
 
 俺達はしばらくの間「大学はどうだ」、「最近の薬は」などの、取り留めのない雑談を交わした。父との会話はほぼ薬学系の話題で埋められる。母はほとんど相槌を打つだけだ。
 
 運ばれてきた紅茶で喉を潤しながら父の質問に応じる。父の質問は、俺の大学での講義内容についてのものが主だった。どんどん変わっていく薬学の世界についていくのは大変だな、と俺の話を聞きながら苦笑気味に言う。
 
 研究は何をするつもりだと聞かれ、まだ決めていないと答えた。父も深くは追及しない。やがて話は来年から始まる実務実習のことへと流れていく。
 
 それは奇妙に不自然で、急に角度を変える壁に向かってボールを投げてるかの如く不安定な会話だった。
 
 父の質問はある一点を避けている。普通、大学四年生と進路の話をするとなれば、大抵の親はこう訊いてくるのではないだろうか。
 
 
『就職はどこにするつもりだ?』と―― 
 
 
 その質問に対する答えを用意してなくもない俺としては、奥歯にものが挟まったような会話は少しもどかしさを覚えずにはいられない。
 
 かと言って自分から話を切り出すつもりはなかったので、舵取りは父に任せるままにしておいた。
 
 俺も、完全な答えを用意しているわけではない。
 
 会話に一旦区切りがついた頃、父が小用で席を立った。少し顔色が悪い。
 
 父が部屋から去った後に、そのことについて母に尋ねてみた。
< 212 / 285 >

この作品をシェア

pagetop