とんでも腐敵☆パートナー
「そろそろ、お客さんの来る時間だね」
 
 言われて壁の柱時計を見ると、確かに時刻は夕食の頃合いだった。それに申し合わせたかのように、玄関のチャイムが鳴る。
 
「はは。言った傍から御到着のようだ」
 
 苦笑して玄関に向かう父。母も立ち上がって父の後に続く。俺はこのまま客間で待つことにした。
 
 
 両親が挨拶する声が微かに聞こえ、やがて足音が近付いてくる。
 
 スリッパがフローリングを擦る音、衣擦れの音。ミシッと軋む床。
 
 ――何故だかそのひとつひとつがやけに大きく響き、俺の鼓動を僅かに跳ね上げる。審判を待つ、犯罪者にでもなったかのように。
 
 
 この時俺は既に気付いてたのかもしれない。
 
 来訪者が誰であるかを。
 
 
 ギィ――
 
 
 リビングの扉が開き、父に連れられて入ってくる人影。
 
 およそこの世で最も会いたくない人物。
 
 
「久しぶりだな、冬也」
 
 
 落ち着いた立ち居振る舞いはさすが旧財閥の統帥と言わざるを得ない。その威圧感は見る者を圧倒させる。
 
 体中から迸るのは野心家のオーラ。
 
 この男の名は神薙海治(かんなぎかいじ)――財界で一、二を争う神薙グループの会長。
 
 
 俺の実父だった。
 
 
 
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