とんでも腐敵☆パートナー
「ねぇ、冬也」
 
 不意に名を呼ばれ、昔の思い出に浸っていたことに気付く。
 
「はい?」
 
 顔を上げると、当たり前だが母の顔があった。ただし、普段よく見せる顔とは違う。いつもの、無理に浮かべてるような微笑が消えている。真摯な表情。
 
「体調は悪いけど、今日のあの人はとても嬉しそうなのよ。久しぶりに貴方に会えて」
 
「……そう、ですか……」
 
「そうよ。子供が自分と同じ薬学を学んで成長していっている。これ以上の喜びはないわ。いつか貴方と、現代薬学について議論を交わせる日が来るのをとても愉しみにしてるのよ」
 
 母の言いたいことは分かる気がした。
 
「父さんの会社の開発部に入るのも楽しそうですね」
 
 跡継ぎという言葉は意識的に避けた。
 
 しかしこれは、遠まわしにそれを拒絶しているのと同じことだ。
 
 どういった反応が返ってくるか――だが母の言葉は予想してたものとは違い、
 
「そういうことではないわ、冬也。つまりはね……こういう、用事で呼び出されるのではなくて……。……たまには、家に帰ってらっしゃい」
 
 強めの口調から始まった言葉は、最後には、真摯な嘆願の響きがあった。
 
「………………」
 
 ここを、帰るべき場所とみなしてない俺に、返すべき言葉はない。
 
 また紅茶を口に含んでその場をやり過ごした。その時、父が戻ってきた。
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